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2017年12月5日火曜日

【数学】 超準解析における微分(導入篇)

ここでは超準解析で微分がどのように取り扱われるかを見る。

超準解析において微分を取り扱うためには、無限小超実数そのものの知識だけではなく、「~と比べて無限に近い」という論理を駆使する必要がある。この論理はランダウの「スモール・オー」記号と関係している。

注意:このサイトでは、微分の論理を最初から多変数関数をベースとして展開する。微分については一変数関数を理解してから多変数関数に進むのが普通のやり方だと思う。しかし、多変数関数の微分は一般的な理論であり、一変数関数はその特殊例として取り扱う方が自然である。

準備:多変数関数

右のような何の変哲もない多変数関数 f:R^n → R を想定する。yはスカラー量であり、xはn次元のベクトルである。これはつまりn組みの数xに対して、ただひとつの数字yが決まっていることを表現するものに過ぎない。\[
y = f(\boldsymbol{x})
\]

次のように増分Δyを導入する。Δxは0ではない無限小ベクトルである。Δyは必ずしも無限小とは限らない。
\[
\Delta y = f(\boldsymbol{x} + \Delta \boldsymbol{x}) - f(\boldsymbol{x})
\]



ノート:無限小ベクトルとは右のようにそのベクトルの大きさ(ノルム)が無限小であるようなベクトルのことである。
\[
|\Delta \boldsymbol{x}| = \sqrt{\sum_{i=1}^{n} x_{i}^{2}} \simeq 0
\]

微分の定義

次に、あるn次元実数ベクトルmを想定しておく。これとΔxとの内積、dyを定義する。
\[
dy = \boldsymbol{m} \cdot \Delta \boldsymbol{x}
\]

微分の定義

あるmが存在して、右式が成立するとき、dyを(全)微分と呼び、mを微分係数と呼ぶ。
\[
\frac{\Delta y}{|\Delta \boldsymbol{x}|} \simeq \frac{dy}{|\Delta \boldsymbol{x}|}
\]


上の定義式を右のように書き直して表現すると便利である。「Δyとdyは|Δx|に比べて無限に近い」と読む。
\[
\Delta y \simeq dy \;\;\; (|\Delta \boldsymbol{x}| に比べて)
\]

参考:ランダウの記号による表現

ここまでで微分の定義は終わっている。蛇足かもしれないが、ランダウの記号でも表現してみる。

ランダウの記号(「スモール・オー」)

\[
o(|\Delta \boldsymbol{x}|) = \left\{ a \in R^{*} \left| \frac{a}{|\Delta \boldsymbol{x}|} \simeq 0 \right. \right\}
\]



ランダウの記号を使うと、定義式は右のように簡単に表現できる。
\[
\Delta y - dy \in o(|\Delta \boldsymbol{x}|)
\]

ランダウの記号で表現されるものは数字ではなく集合である。にも拘わらず、次のような表現も使われることがある。
\[
\Delta y - dy = o(|\Delta \boldsymbol{x}|) \;\; または \;\; \Delta y = dy + o(|\Delta \boldsymbol{x}|)
\]

2番目の表現は右のように表現できることにも注意しよう。これは増分ΔyがΔxについての一次の項と「Δxに比べて無限小の項」の和で表現されることを意味する。(二次以降の項もあるだろうとうっすら予想されるが、いまのところは何も考えないでおく。)
\[
\Delta y = \boldsymbol{m} \cdot \Delta \boldsymbol{x} + o(|\Delta \boldsymbol{x}|)
\]

微分係数mの計算方法:偏微分

もしmが存在するならば、例えば、右のように一つの要素を無限小にして、残りの要素が0であるような無限小ベクトルを考えることが出来る。
\[
\Delta \boldsymbol{x} = (0,\cdots,\Delta x_{i},\cdots,0)
\]

これを定義式に代入してみよう。まずdyと |Δx| は右のようになる。
\[
dy = m_{i} \Delta x_{i} , \;\;\; |\Delta \boldsymbol{x}| = \Delta x_{i}
\]

従って、定義式からmiが自動的に右のように計算できる。
\[
\frac{\Delta y}{|\Delta \boldsymbol{x}|} \simeq \frac{dy}{|\Delta \boldsymbol{x}|} \Rightarrow m_{i} \simeq \frac{\Delta y}{\Delta x_{i}}
\]

このmiを偏微分係数と呼ぶ。標準部分stを使うと右のように表示される。
\[
m_{i} = \mbox{st} \left( \frac{\Delta y}{\Delta x_{i}} \right) \equiv \frac{\partial y}{\partial x_{i}}
\]

偏微分計算をきちんと書いておくと、下のようになる。

\[
\frac{\partial y}{\partial x_{i}} = \mbox{st} \left( \frac{f(x_{1},\cdots,x_{i}+\Delta x_{i},\cdots,x_{n})-f(x_{1},\cdots,x_{i},\cdots,x_{n})}{\Delta x_{i}} \right)
\]

ノート:記号法に関する注釈。偏微分につき、右のように表現することがある。
\[
\frac{\partial f}{\partial x_{i}} = f_{i}
\]

全微分は、従って右のようになる。ここでは形式的にΔxiとd xiを同一視していることに注意する。
\[
d f = \sum_{i} f_{i} \Delta x_{i} = \sum_{i} f_{i} d x_{i}
\]


問題集

上の内容を踏まえた問題を幾つか集めてみた。

問1 次の関数の偏導関数および全微分を求めよ。
\[
f(x,y)=e^{x^{2}-y^{2}}
\]

答1 まずは偏導関数から
\[
f_{x} = 2x e^{x^{2}-y^{2}} , \;\; f_{y} = -2y e^{x^{2}-y^{2}}
\]

全微分は、
\[
df = f_{x} dx + f_{y} dy = 2e^{x^{2}-y^{2}}(xdx-ydy)
\]

偏微分を試しに詳しく計算してみる。

\[
f_{x} = \mbox{st} \left( \frac{f(x+\Delta x,y)-f(x,y)}{\Delta x} \right)
\]
\[
= \mbox{st} \left( \frac{e^{(x+\Delta x)^{2}-y^{2}}-e^{x^{2}-y^{2}}}{\Delta x} \right)
\]
\[
= e^{x^{2}-y^{2}}\cdot \mbox{st} \left( \frac{e^{2x \Delta x + (\Delta x)^{2}}-1}{\Delta x} \right)
\]
\[
= e^{x^{2}-y^{2}}\cdot \mbox{st} \left( \frac{e^{2x \Delta x + (\Delta x)^{2}}-1}{2x \Delta x + (\Delta x)^{2}} \cdot \frac{2x \Delta x + (\Delta x)^{2}}{\Delta x} \right)
\]
\[
= e^{x^{2}-y^{2}}\cdot \mbox{st} \left( \frac{e^{2x \Delta x + (\Delta x)^{2}}-1}{2x \Delta x + (\Delta x)^{2}} \right) \cdot \mbox{st} \left( 2x + \Delta x \right)
\]
\[
= e^{x^{2}-y^{2}}\cdot 1 \cdot 2x
\]
問2 次の関数の偏導関数および全微分を求めよ。
\[
f(x,y)=\sin x \cos y
\]
答2 偏導関数は、
\[
f_{x} = \cos x \cos y , \;\; f_{y} = - \sin x \sin y
\]

全微分は、
\[
df = f_{x} dx + f_{y} dy = \cos x \cos y dx - \sin x \sin y dy
\]
問3 次の関数の偏導関数および全微分を求めよ。
\[
f(x,y)=\arcsin x^{2}y
\]
答3 偏導関数は、
\[
f_{x} = \frac{2xy}{\sqrt{1-(x^{2}y)^{2}}} , \;\; f_{y} = \frac{x^{2}}{\sqrt{1-(x^{2}y)^{2}}}
\]

全微分は、
\[
df = f_{x} dx + f_{y} dy = \frac{2xydx + x^{2}dy}{\sqrt{1-(x^{2}y)^{2}}}
\]
問4 次の関数の偏導関数および全微分を求めよ。
\[
f(x,y,z)=\sqrt{x^{2}+y^{2}+z^{2}}
\]
答4 偏導関数は、
\[
f_{x} = \frac{x}{\sqrt{x^{2}+y^{2}+z^{2}}} , \;\; f_{y} = \frac{y}{\sqrt{x^{2}+y^{2}+z^{2}}}
\]

全微分は、
\[
df = f_{x} dx + f_{y} dy + f_{z}dz = \frac{xdx+ydy+zdz}{\sqrt{x^{2}+y^{2}+z^{2}}}
\]
問5 次の関数の偏導関数および全微分を求めよ。
\[
f(x,y)=\frac{1}{xy}
\]
答5 偏導関数は、
\[
f_{x} =-\frac{1}{x^{2}y} , \;\; f_{y} = -\frac{1}{xy^{2}}
\]

全微分は、
\[
df = f_{x} dx + f_{y} dy = -\frac{ydx+xdy}{x^{2}y^{2}}
\]
問6 次の関数の偏導関数および全微分を求めよ。
\[
f(x,y)=e^{x+y}
\]
答6 偏導関数は、
\[
f_{x} =e^{x+y} , \;\; f_{y} = e^{x+y}
\]

全微分は、
\[
df = f_{x} dx + f_{y} dy = e^{x+y}(dx+dy)
\]