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2016年11月4日金曜日

【数学】 無限小解析の世界(その5)

今回は方程式とその解について解説する。また、その過程で超実数の公理を拡張する(これまでは実質的に超実数が実数の真拡大体であることしか注目してこなかった)。

今回追加されるのは、関数の公理と解の公理である。

超実数の公理(version 1)
  1. Rは完備順序体である。
  2. R*はRの真拡大順序体である。
  3. (関数の公理)任意のn変数実関数fに対し、fの自然延長と呼ばれるn変数超実関数f*が「対応する」。(特にR*の体演算はRの体演算の自然延長である。)
  4. (解の公理)二つの式系がちょうど同じ実解を持つ、ならば、それらはちょうど同じ超実解を持つ。

自然延長は今のところいい加減な定義のままにしておく。(特に・・・のところは単なる例示ではなくて、始点として理解されたし。)



用語集

  • (n変数)実関数:R^nの部分集合からRへの写像。
  • 変数:文字x、y、z、・・・
  • 定数:Rの元(例えばc)
  • :変数、定数に実関数を何回か施した結果。
  • 定(数)項:変数を含まない項。
  • 方程式:項=項。
  • 不等式:項≧項、項>項、項≠項のいずれか。
  • :方程式、または、不等式。
  • 式系:式の有限集合。
  • 式系S(x1,x2,・・・,xn)の:n個の定数の組(c1,c2,・・・cn)でSのすべての変数(x1,x2,・・・,xn)に代入したときに、項のすべてが定義され、しかもすべての式が正しくなるもの。

解に関する留意点。

\[
\sqrt{x} = \sqrt{x}
\]
の解は
\[
x \geq 0
\]
である(√xの定義域)。つまり、x < 0は上の式の解ではない。

具体例。
\[
h:(x_{1},x_{2}) \to x_{1} x_{2}
\]
hは2変数関数である。
\[
f:(x) \to h(x,x) = x^{2}
\]
fは1変数関数である。
\[
S: x=y^{2}(=f(y)), \;\; y \geq 0
\]
Sは式系である。
\[
y = \sqrt{x} \leftrightarrow S: x=y^{2}, \;\; y \geq 0 が成立している
\]
√・は式系Sによる新たな1変数関数の定義である(陰関数表示)。


解の公理の意味

解の公理について。

例えば、上の例の式系Sについて、等号と積と不等号しか使っていないので、その超実数版S*を構成できる。

だから、
\[
y=f^{*}(x) = \sqrt{x}
\]
はS*で定義できる。これ以降、fとf*を(必要が無ければ)表記上は区別しない。


問題

問題1.次の関数の定義域は何か。

1)
\[
f(x)=\frac{1}{\sqrt{x}(x-2)}
\]
2)
\[
f(x,y) = \sqrt{1-x^{2}-y^{2}}
\]

解答1.

1)
\[
\sqrt{x}(x-2) \neq 0 \to \sqrt{x} \neq 0 , \; x \neq 2 \to x > 0 , \; x \neq 2
\]
2)
\[
1-x^{2}-y^{2} \geq 0 \to x^{2}+y^{2} \leq 1
\]

問題2.次の式系の実解の集合全体は何か(可能ならば図示せよ)。
1)
\[
x = x
\]
2)
\[
x=y
\]
3)
\[
x < y \] 4) \[ \sqrt{x} = \sqrt{x} \] 5) \[ x \neq x \] 解答2.

1) Rそのもの
2) 45度に傾いた直線。
\[
(x,y=x) \in R^{2}
\]
3) (縦軸をyと置いたならば)45度に傾いた直線より上の領域(境界含まず)。
\[
(x,y>x) \in R^{2}
\]
4) 非負の実数
\[
x \geq 0 \in R
\]
5) 空集合φ


部分実解と部分超実解

「解の公理」から導かれる性質について。特に部分解について。

定理1:
  1. 式系Sがあらゆる実数に対して正しい ⇒ 式系Sはあらゆる超実数に対して正しい
  2. 式系Sが実解をもたない ⇒ 式系Sは超実解をもたない

(証明)

1)式系Sとx=xは同じ実解(Rそのもの)を持つ。解の公理により、式系Sとx=xは同じ超実解(R*そのもの)を持つ。

2)式系Sとx≠xは同じ実解(空集合)を持つ。解の公理により、式系Sとx≠xは同じ超実解(空集合)を持つ。


ここで式系Sの有限性について重要な注釈。次の無限個の不等式は、実解はもたないが、超実解は持つ(任意の無限小超実数)。

\[
x >0, x < 1, x < \frac{1}{2}, x< \frac{1}{3}, \cdots \]

定理2:fをn変数の実関数とする。c1,・・・,cnを実数とする。
  1. f(c1,・・・,cn)が定義されている ⇒ f*(c1,・・・,cn)=f(c1,・・・,cn)
  2. f(c1,・・・,cn)が定義されていない ⇒ f*(c1,・・・,cn)は定義されていない

(証明)

1)f(c1,・・・,cn)が定義されているので、その値(実数)を計算できる。これをC0とする。
次の式系を考える。
\[
f(c_{1},・・・,c_{n}) = C_{0}, \; \; x = x
\]
この式系はあらゆる実数xについて正しい。定理1より、次の式系はあらゆる超実数xに対しても正しい。
\[
f^{*}(c_{1},・・・,c_{n}) = C_{0}, \; \; x = x
\]
よって、
\[
f^{*}(c_{1},・・・,c_{n}) = C_{0} = f(c_{1},・・・,c_{n})
\]

2)f(c1,・・・,cn)が定義されていないので、次の式系は実解を持たない。
\[
f(c_{1},・・・,c_{n}) = f(c_{1},・・・,c_{n}), \; \; x = x
\]
定理1より、次の式系は超実解を持たない。
\[
f^{*}(c_{1},・・・,c_{n}) = f^{*}(c_{1},・・・,c_{n}), \; \; x = x
\]
なので、f*(c1,・・・,cn)は定義されていない

ここで写像stに関する注釈。st(x)は実関数でも、実関数の自然延長でもない。なので、定理2はstには適用されない。

定義:Pを性質、Fを式系とする

PとFが同じ実解、超実解をもつとき、PとFは「同値」である、という。

(例)fをn変数の実関数とする。次の性質と同値の方程式がある。
  1. f(x1,・・・,xn)が「定義されている」
  2. f(x1,・・・,xn)が「定義されていない」

1)について

P:f(x1,・・・,xn)が「定義されている」は

F:f(x1,・・・,xn)=f(x1,・・・,xn) と同値

2)について

fについて、次のような式を考える。
\[
g(x_{1},\cdots,x_{n}) = \left\{ \begin{array}{l l} 1 & f(x_{1},\cdots,x_{n}) が定義される \\ 0 & f(x_{1},\cdots,x_{n}) が定義されない \end{array} \right.
\]

\[
g(x_{1},\cdots,x_{n}) = g(x_{1},\cdots,x_{n})^{2}
\]
はあらゆる実数について成立(0,1のいずれかだから)、従って定理1よりあらゆる超実数について成立。g(x1,・・・,xn)はあらゆる超実数について定義され、その値は0か1(ただし、まだfとの対応関係は分からないことに注意)。

他方、次の二つの式は同じ実解、超実解を持つ。
\[
\left\{ \begin{array}{l r} g(x_{1},\cdots,x_{n})=1 & ...(1) \\ f(x_{1},\cdots,x_{n})=f(x_{1},\cdots,x_{n}) & ...(2) \end{array} \right.
\]
これより、任意の超実数c,・・・,cnについて、
\[
\begin{eqnarray} & & f(c_{1},\cdots,c_{n}) は定義されない \\ & \Leftrightarrow & (c_{1},\cdots,c_{n}) は(2)の解ではない \\ & \Leftrightarrow & (c_{1},\cdots,c_{n}) は(1)の解ではない \\ & \Leftrightarrow & g(c_{1},\cdots,c_{n}) = 0
\end{eqnarray}
\]

定理4:S、Tを式系とする。Sの実解がすべてTの実解 ⇒ Sの超実解がすべてTの超実解
\[
S , S \cap T は同じ実解を持つ
\]
\[
\Rightarrow S , S \cap T は同じ超実解を持つ
\]

定義:部分実解

式系Tがx1,・・・,xk,・・・xnをもつ。

(c1,・・・,ck)に対して、(ck+1,・・・,cn)を見つけて、Tの実解(c1,・・・,ck,・・・,cn)が得られるならば、(c1,・・・,ck)をTの部分実解とよぶ。

(例)

\[
T : x = y^{2}
\]
について、x=1はTの部分実解である(y=1またはy=-1)。x=-1はTの部分実解ではない(yを見つけることは出来ない)。

定理5:部分解定理

式系Sがx1,・・・,xkをもつ。
式系Tがx1,・・・,xk,・・・xnをもつ。

このとき次の3条件は互いに同値である。
  1. Sの実解はすべてTの部分実解である。
  2. Sの実解はすべてTの部分超実解である。
  3. Sの超実解はすべてTの部分超実解である。

(証明) 1 ⇒ 3 ⇒ 2 ⇒ 1 と証明する。 S:(x) , T:(x,y)とする。

1 ⇒ 3

1より、Sの任意の実解x0に対して、(x0,y0)がTの実解となるようなy0が存在している。
y0 = f(x0)とする。
ここで、
\[
\left\{ \begin{array}{l c r} Sの実解はすべて f(x)=f(x) の解である & \;\;\; & ...(3) \\ S \cup \left\{ y=f(x) \right\} の実解はTの解である & \;\;\; & ...(4) \end{array} \right.
\]

定理4より、(3)(4)は超実数についても成立。

x1をSの超実解とすると、(3)よりf(x1)は定義されており、それを計算した結果をy1とする。
\[
y_{1} = f(x_{1})
\]
(4)より(x1,y1)はTの超実解である。従って、x1はTの部分超実解である。

3 ⇒ 2

Sの超実解x1に対して、(x1,y1)がTの超実解となるような超実数y1をとれる。これはSの実解x0についても言える。

2 ⇒ 1

Sの実解x0がTの部分実解ではないと仮定する。
Tの式系に含まれるxに定数x0を代入した式系をT(x0,y)とする。
仮定より、T(x0,y)は実解を持たない。
定理1よりT(x0,y)は超実解を持たない。
従って、x0はTの部分超実解ではない。これは2に矛盾。
従って、Sの実解x0はTの部分実解でなければならない。

(例)任意の正の超実数xに対し、y^n = x となる正の超実数yがただ一つ存在する。

存在について。次の式系S、Tを考える。

\[
S : x > 0 , \;\;\; T: x>0,y>0,y^{n}=x
\]
Sの実解はすべてTの部分実解である。
部分解定理より、Sの超実解はすべてTの部分超実解である。従って、Tを満たす超実数yが存在する。

唯一性について。
\[
y_{1} \neq y
\]
なるTを満たすy1が存在するとする。y1 < y または y < y1 である。 R*は順序体であるから、 \[ y_{1}^{n} < y^{n} = x \; または \; x=y^{n} < y_{1}^{n} \] より \[ y_{1} \neq x \] y1はTを満たさないので、矛盾。よって、yと異なるy1は存在しない。

問題

問題3.以下は「Sの実解がすべてTの部分実解である」と言えるかどうか判定せよ。

1)
\[
S: x > 0, \;\; T: x=y^{2}
\]

2)
\[
S: x = x, \;\; T: x=y^{2}
\]

3)
\[
S: x > 0, \;\; T: y>0, x>y
\]

4)
\[
S: x > 0, \;\; T: \frac{1}{x} < y \] 5) \[ S: x > 0, \;\; T: y < x , x < y^{2} \] 問題3.

1) Sは正の実数全体を走る。その一つ一つに必ず正負二つの実解yを見つけることが出来る。 ⇒ ○

2) Sは実数全体を走るが、xが負のときに対応するTの実解yを見つけられない。 ⇒ ×

3) Sは正の実数全体を走る。その一つ一つに必ず、無数のy > xを見つけることが出来る。 ⇒ ○

4) Sは正の実数全体を走る。その一つ一つに必ず、無数のy > 1/xを見つけることが出来る。 ⇒ ○

5) Sは正の実数全体を走る。その一つ一つに必ず、無数のy < x , x < y2 なるyを見つけることが出来る(特にy < 0の領域で)。 ⇒ ○

今日はこの辺で。