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2016年10月29日土曜日

【数学】 無限小解析の世界(その1)

https://www.math.wisc.edu/~keisler/calc.html

現実を離れ、めくるめく数式の宇宙に飛び立とう(・・・現実逃避)。シリーズの第1回は無限小解析を取り扱います。

「無限小解析」は、微分/積分と同じことだが、極限操作、位相という概念の代わりに、超実数を使うところが異なる。同じならばなぜわざわざ違う道具建てを増やすのか、という批判もある。そのせいか、2016年現在、そんなに注目されているとは言えない。無限小解析を使って、はじめて新しいことが分かった、というのは少ない。注目されていないので、心安らかに没頭できるし、その面白さを伝えることにも意味があるのでは、と思える。

「無限小解析」の「微積分」と違う面白さは、実際に無限小、無限大の数を計算することが出来ることだ。無限大、無限小は存在するのだろうか、という前に、実際に存在したとしたらどんな計算ができるのだろうか。これが計算できてしまうのである。今日は、そのあたりを具体的に計算しながら、「無限小解析」の世界をじっくりと堪能していくことにしよう。

問題1.εを0でない無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
A = \frac{3\epsilon^{3}+\epsilon^{2}-6\epsilon}{2\epsilon^{2}+\epsilon}
\]



解答1.

標準部分(あとで説明)が計算できるならば、a)かb)のいずれかになるのは分かる。標準部分が0に等しければa)である。そうでなければb)である。なので、標準部分を計算してみる。

\[
A = \frac{3\epsilon^{2}+\epsilon-6}{2\epsilon+1}
\]

標準部分をとる操作をst()で表現する。分数の標準部分については、分母と分子のそれぞれについて標準部分をとればよいことが分かっている。

\[
\mbox{st}\left(\frac{X}{Y}\right) = \frac{\mbox{st}(X)}{\mbox{st}(Y)} \; \; \; ただし \mbox{st}(Y) \neq 0
\]

\[
\mbox{st}(A) = \frac{\mbox{st}(3\epsilon^{2}+\epsilon-6)}{\mbox{st}(2\epsilon+1)} = \frac{-6}{1} = -6
\]

このように標準部分が計算できて、しかも0ではないので、判定はb)となる。

問題2.ε、δを0でない無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
B = \frac{3-2\epsilon}{4+3\delta}
\]

今度は無限小量が二つ出てきており、これらは互いに等しくない。これは従来の極限操作ではあまりお目にかからないものだ。

解答2.

解き方は上と同じである。

\[
\mbox{st}(B) = \frac{\mbox{st}(3-2\epsilon)}{\mbox{st}(4+3\delta)} = \frac{3}{4}
\]

やはり判定はb)である。

問題3.Hを無限大とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
C = \frac{2H^{2}+H}{H^{2}-H+2}
\]

無限大の計算。無限小の計算に直すと考えやすい。

解答3.

\[
C = \frac{2+\frac{1}{H}}{1-\frac{1}{H}+\frac{2}{H^{2}}}
\]

\[
\mbox{st}(C) = \frac{\mbox{st}(2+\frac{1}{H})}{\mbox{st}(1-\frac{1}{H}+\frac{2}{H^{2}})} = \frac{2}{1} = 2
\
\]

判定はb)

問題4.Hを無限大とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
A = \sqrt{H+1} - \sqrt{H-1} \;\;\; ただし H > 0
\]

無限大から無限大を差し引いているので、ちょっと工夫しないと標準部分を計算できない。(H>1じゃなくて良いのか、という疑問が出るかもしれないが、符号だけが重要である。正の無限大ならば、H>1はあたりまえなのだから。)


解答4.

\[
A = \frac{(\sqrt{H+1} - \sqrt{H-1})(\sqrt{H+1} + \sqrt{H-1})}{\sqrt{H+1} + \sqrt{H-1}} = \frac{(H+1)-(H-1)}{\sqrt{H+1} + \sqrt{H-1}}
\]

\[
= \frac{2}{\sqrt{H+1} + \sqrt{H-1}}
\]

分母が無限大なので、全体としては無限小になる。判定はa)。標準部分は0である。

問題5.εを0でない無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
B = \frac{\sqrt{\epsilon}+\epsilon}{\sqrt{\epsilon}+1} \;\;\; ただし \epsilon > 0
\]

εだけの式であるが、分数の中に根号が入っている。分子が無限小で、分母が有限なので、全体はきっと無限小なのだろうと予想がつく。

解答5.

\[
B = \frac{\sqrt{\epsilon}(\sqrt{\epsilon}+1)}{\sqrt{\epsilon}+1} = \sqrt{\epsilon}
\]

これより判定はa)。標準部分は0である。

問題6.H、Kを無限大とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
C = \frac{H+K}{HK}
\]

互いに異なる無限大が2つある。分母が二次、分子が一次なので、きっと全体は無限小なのだろうと予想されるが。

解答6.

\[
C = \frac{H}{HK} + \frac{K}{HK} = \frac{1}{K} + \frac{1}{H}
\]

\[
\mbox{st}(C) = \mbox{st}\left(\frac{1}{K}\right) + \mbox{st}\left(\frac{1}{H}\right) = 0
\]

これより判定はa)。標準部分は0である。


問題8.εを0でない無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
B = \frac{\epsilon}{5-\sqrt{25+\epsilon}}
\]

分子が無限小で、分母も無限小。さてどうなるか・・・

解答8.

\[
B = \frac{\epsilon(5+\sqrt{25+\epsilon})}{(5-\sqrt{25+\epsilon})(5+\sqrt{25+\epsilon})}=-(5+\sqrt{25+\epsilon})
\]

\[
\mbox{st}(B) = -(5+\mbox{st}(\sqrt{25+\epsilon})) = -10
\]

判定はb)

問題9.ε、δを0でない無限小とする。aを標準部分が3である超実数とする(st(a)=3)。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
C = \sqrt{a+\epsilon}\sqrt{a+\delta}
\]

これはそれほど難しくない。

解答9.

\[
\mbox{st}(C) = \sqrt{\mbox{st}(a+\epsilon)}\sqrt{\mbox{st}(a+\delta)} = 3
\]

判定はb)

問題10.Hを無限大とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
A = \left( H + \frac{1}{H} \right)^{2} - \left( H - \frac{1}{H} \right)^{2}
\]

無限大から無限大を引いている。展開してみると・・・

解答10.

\[
A = \left( H^{2} + 2 + \frac{1}{H^{2}} \right) - \left( H^{2} - 2 + \frac{1}{H^{2}} \right) = 4
\]

つまり標準部分をとるまでもなく、これは実数そのものだ。判定はb)

問題11.Hを無限大とする。εを無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
B = \left( H + \frac{\epsilon}{H} \right)^{2} - \left( H - \frac{\epsilon}{H} \right)^{2}
\]

問題10に似ているが、結果は異なる。

解答11.

\[
B = 4 \epsilon
\]

\[
\mbox{st}(B) = 0
\]

判定はa)。標準部分は0である。

問題12.εを0でない無限小とする。aを0でない実数とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
C =\frac{\frac{1}{a+\epsilon}-\frac{1}{a}}{\epsilon}
\]

これは実は分数関数の微分係数を求めることと同じである。

解答12.

\[
C =\frac{\frac{a(a+\epsilon)}{a+\epsilon}-\frac{a(a+\epsilon)}{a}}{\epsilon a(a+\epsilon)} = - \frac{1}{a(a+\epsilon)}
\]

\[
\mbox{st}(C) = -\frac{1}{a^{2}}
\]

判定はb)

問題13.εを0でない無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
A =\frac{1 - \sqrt[3]{1+\epsilon}}{\epsilon}
\]

これは実はべき関数の微分係数を求めることと同じである。

解答13.

次のような無限小量δを想定する。

\[
1 + \epsilon = (1 + \delta)^{3}
\]

\[
A =\frac{1 - (1+\delta)}{(1+\delta)^{3}-1} = \frac{-\delta}{3\delta + 3\delta^{2} + \delta^{3}} = -\frac{1}{3 + 3\delta + \delta^{2}}
\]

\[
\mbox{st}(A) = -\frac{1}{3}
\]

判定はb)

問題14.Hを無限大とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
B = H - \sqrt{H+1} \sqrt{H+2}
\]

解答14.

\[
B = H\left(1 - \sqrt{1+\frac{1}{H}} \sqrt{1+\frac{2}{H}}\right)
\]
\[
= H \frac{1 - \left(1+\frac{1}{H}\right) \left(1+\frac{2}{H}\right)}{1 + \sqrt{1+\frac{1}{H}} \sqrt{1+\frac{2}{H}}} = \frac{-3-\frac{2}{H}}{1 + \sqrt{1+\frac{1}{H}} \sqrt{1+\frac{2}{H}}}
\]

\[
\mbox{st}(B) = -\frac{3}{2}
\]

判定はb)

問題15.aを7ではないが標準部分が7である超実数とする(a≠7,st(a)=7)。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
C =\frac{3-\sqrt{a+2}}{a-7}
\]

無限小超実数ではなく有限超実数が出てきた。

解答15.

\[
a = 7 + \epsilon
\]

となる0ではない無限小εを想定する。すると、

\[
C =\frac{3-\sqrt{9+\epsilon}}{\epsilon} =\frac{9-(9+\epsilon)}{\epsilon(3+\sqrt{9+\epsilon})} = -\frac{1}{3+\sqrt{9+\epsilon}}
\]

\[
\mbox{st}(C) = -\frac{1}{6}
\]

判定はb)

問題16.εを0でない無限小とする。次の量はa)無限小、b)無限小でない有限、c)無限大のいずれであるか判定せよ。c以外の場合、その標準部分を求めよ。

\[
A =\frac{\sqrt{25-\epsilon}-5}{\epsilon}
\]

解答16.

\[
A =\frac{(25-\epsilon)-25}{\epsilon(\sqrt{25-\epsilon}+5)} = -\frac{1}{\sqrt{25-\epsilon}+5}
\]

\[
\mbox{st}(A) = -\frac{1}{10}
\]

判定はb)

続きます・・・