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2016年10月30日日曜日

【数学】 無限小解析の世界(その2)

やはり現実逃避の世界が続く。

前回は、無限小や無限大を含む計算をひたすらやってみた。結果的に、無限大はなくてすべて有限の値となった。しかも標準部分をすべて計算できた。だんだん慣れてきた。

では、こうした計算の背景にはどんな仕掛けがあるのか、が今回のテーマである。超実数の公理を紹介する。

超実数の公理は、さしあたり次の二つからなる。

超実数の公理 (version 0)
  1. Rは完備順序体である
  2. R*はRの真拡大順序体である

Rは実数のことだけれど、これは「体」であり、「順序」を持ち、「完備」である、ということを言っている。R*はRと同じ完備順序体で、R*はRを含む拡大集合であり、R*に含まれてしかもRに含まれない要素がある、と言っている。



「完備」というのは説明するのが難しいけれども、あとで再び詳しく取り上げる。今は、二つの要素の間に入る要素が常に見つかる、ということだと思っていただきたい。

ここで重要な定義を。

\[
\begin{eqnarray} xは無限小超実数 & \leftrightarrow & \forall r (> 0 \in R) \;\;\; |x| < r \\ xは有限超実数 & \leftrightarrow & \exists r ( \in R) \;\;\; |x| < r \\ xは無限大超実数 & \leftrightarrow & \forall r ( \in R) \;\;\; |x| > r \end{eqnarray}
\]

さらに定義

\[
xとyは無限に近い \;\;\; \leftrightarrow \;\;\; x \simeq y \;\;\; \leftrightarrow \;\;\; |x-y]が無限小超実数
\]

無限大、無限小を使った演算

「モナド」単子(monad)というのはライプニッツの作った造語だけれど、極微の小宇宙のようなもの。超実数においてもモナドがある。

\[
\mbox{monad}(x) = \left\{ y \in R^{*} ; x \simeq y \right\}
\]

もう一つ、「銀河」(galaxy)の概念。

\[
\mbox{galaxy}(x) = \left\{ y \in R^{*} ; y - x は有限 \right\}
\]

monad(0)は無限小超実数のことである。つまり、
\[
\mbox{monad}(0) = \left\{ y \in R^{*} ; |y| は無限小 \right\}
\]

galaxy(0)は有限超実数のことである。つまり、
\[
\mbox{galaxy}(0) = \left\{ y \in R^{*} ; y は有限 \right\}
\]

【性質1】galaxy(0)はR*の部分環になっている。つまり、galaxy(0)に属する超実数の和、差、積はやはりgalaxy(0)に属する。

これは次のように証明される。galaxy(0)に属する二つの超実数x,yを考える。有限なので、これらを上から押さえる実数r,sを見つけられる。

\[
|x| < r ,\;\;\;\; |y| < s \] \[ \begin{eqnarray} |x + y| & < & |x| + |y| < r + s \\ |x - y| & < & |x| + |y| < r + s \\ |xy| & = & |x||y| < rs \end{eqnarray} \] なので、いずれにせよ有限。だから和、差、積はgalaxy(0)に属する。(商は分からん。)言い換えると、有限超実数の和、差、積は有限超実数になる

【性質2】二つの銀河は一致するか、または共通点をもたない

これは次のように証明される。

ステップ1:galaxy(x)とgalaxy(y)が共通要素zを持つと仮定する。
ステップ2:galaxy(x)の要素wを想定する。
ステップ3:性質1よりw-x、x-z、z-yはいずれも有限。(いずれもgalaxy(0)に属する)
ステップ4:性質1より、w-yもgalaxy(0)に属する。つまり有限。
ステップ5:よって任意のwはgalaxy(y)に属していなければならない。つまり、galaxy(x)はまるまるgalaxy(y)に含まれていなければならない。
ステップ6:ステップ2からgalaxy(y)について同様の推論をたどる。結果として、galaxy(y)はまるまるgalaxy(x)に含まれていなければならない。
ステップ7:つまり、galaxy(x)とgalaxy(y)は完全一致。

上のようなことにならないようにするには、共通要素zがとれない、としなければならない。

(例1)galaxy(0)とgalaxy(1)は同じもの。

(例2)ある無限大超実数をHとして、galaxy(0)とgalaxy(H)は共通部分をもたない。galaxy(H)とgalaxy(H*H)は共通部分をもたない。

【性質3A】monad(0)はR*の部分環になっている。つまり、monad(0)に属する超実数の和、差、積はやはりmonad(0)に属する。つまり、無限小超実数の和、差、積は無限小超実数になる

これは次のように証明される。monad(0)に属する二つの無限小超実数ε,δを考える。無限小なので、どのような正の実数rについても次が成り立つ。

\[
|\epsilon| < \frac{r}{2} < r ,\;\;\;\; |\delta| < \frac{r}{2} < r \] \[ \begin{eqnarray} |\epsilon + \delta| & < & |\epsilon| + |\delta| < r \\ |\epsilon - \delta| & < & |\epsilon| + |\delta| < r \end{eqnarray} \] また \[ |\epsilon| < r ,\;\;\;\; |\delta| < 1 \] より \[ |\epsilon \delta| = |\epsilon||\delta| < r \] なので、いずれにせよ、どのような正の実数rよりも小さい。だから和、差、積はmonad(0)に属する。


【性質3B】monad(0)はgalaxy(0)のイデアルになっている。つまり、monad(0)に属する無限小超実数とgalaxy(0)に属する有限超実数の積はmonad(0)に属する。つまり、無限小超実数と有限超実数の積は無限小超実数になる

これは次のように証明される。monad(0)に属する無限小超実数εとgalaxy(0)に属する有限超実数xを考える。

どのような正の実数rについて、ある正の実数tが存在し、次が成り立つ。

\[
|\epsilon| < \frac{r}{t} < r ,\;\;\;\; |x| < t \] より \[ |\epsilon x| = |\epsilon||x| < \frac{r}{t} \cdot t = r \] どのような正の実数rよりも小さい。

【性質4】二つの単子は一致するか、または共通点をもたない

証明は性質2と同じやりかた。

【性質5A】xが無限大ならばx^(-1)は無限小。xが無限小ならば、x^(-1)は無限大。

これは次のように証明される。

xが無限大である場合、どんな実数rに対しても、
\[
|x| \geq r
\]
これより
\[
1=|x \cdot x^{-1}| = |x|\cdot|x^{-1}| \geq r \cdot |x^{-1}|
\]
これより
\[
|x^{-1}| \leq r^{-1}
\]
よって、x^(-1)は無限小。逆は、下から上に辿る。

今回はここまで。